鍼灸

ほくと鍼灸院ができるまで【前編】鍼の効果を脳科学で解明しよう!

こんにちは。鍼灸師の坂口友亮(さかぐちともあき)です。北海道帯広市の「ほくと鍼灸院」に勤務しています。

ほくと鍼灸院は「医師との共同研究によって得られた鍼治療のデータを生かし、より多くの方に安心して効果のある鍼治療を受けてほしい」という思いから、2019年10月に開院しました。

今回から3回にわたって、ほくと鍼灸院が生まれた経緯をお話します。きっかけは、一人の医師の「鍼の効果を脳科学で研究してエビデンスを確立しよう!」というチャレンジからはじまりました。

一人の医師とは、病理医の加藤容祟(かとうやすたか)先生です。

加藤先生の専門分野は癌(がん)の遺伝子検査。俗に『ゲノム医療』と呼ばれるもので、癌の性質を判別して弱点を突くための検査です。

検査に来る患者さんは通常の治療が効かなくなり、最後の望みをかけて訪れる人が多いとのこと。ただ、残念ながら進行してしまった癌の場合、最新の遺伝子診断を行っても全員に有効な治療法が見つかるわけではないそうです。

2017年に帯広の北斗病院に着任した加藤先生は、膵臓ガンの痛みをやわらげる方法を探していました。鎮痛剤であるオピオイド(医療用麻薬)を使うと痛みは治まるものの、意識のレベルも下がってしまうので、なるべく使いたくないと考えていました。

そしてふと、ハーバード大学付属のマサチューセッツ総合病院に留学していた時、鍼灸師のチームがいたな…と思い出しました。論文を調べてみると「鍼灸は癌の痛みの緩和に効果がある」という内容のものがいくつか見つかりました。

そこで加藤先生はすぐに行動に出ます。北斗病院の理事長に「鍼科を作ってください!」とお願いしたのです。しかし、「ダメだ!」と返されます。鍼灸には科学的根拠(エビデンス)がなく、保険も適応されないから…と。

そこで諦める加藤先生ではありません。「じゃあエビデンスを確立しよう!」と早速、情報を集め出しました。

SNSを見ていると、札幌で鍼灸院を営む谷地一博(やちかずひろ)先生の投稿が目に飛び込んできました。谷地先生は、北海道大学時代に同じ研究室に所属していた仲間です。投稿には、楽しみながら鍼灸に打ち込む姿がありました。

そうだ、谷地さんと協力すれば鍼灸治療のエビデンスを確立できるかもしれない!

期待を胸に、谷地先生へメールを送りました。

「脳科学ではりの効果を研究しませんか?」

そして2017年11月、帯広の北斗病院で、これまで誰も取り組んだことのない鍼灸の実験が始まりました。

当時の様子は、谷地先生のブログからもご覧いただけます。

あらすじ:北海道札幌市で鍼灸院を営む谷地先生。ある日、病理医の加藤先生から「脳科学で鍼の効果を研究しませんか?」という連絡が届く。なぜ自分に?とドキドキしながら帯広市にある北斗病院で行われる研究に参加することに。そこには予想すらしていなかった鍼灸の可能性が広がっていた。

つづく。